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広島高等裁判所 昭和50年(く)5号 決定 1975年3月11日

少年 B・J(昭三四・九・二一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は附添人長谷川裕作成の抗告申立書および抗告理由書各記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

論旨は、要するに、本件は、少年には特別の不良歴なく、その非行性も比較的固定化していないし、処遇上著しい困難をきたすおそれのある精神障害や性格の異常はなく、暴力団等の反社会的集団と密接な関係もないのであり、少年の更生について、少年の自覚や両親の熱意がみられ、少年院における短期処遇により十分これを期待できると考えられるから、原決定(初等少年院送致)は少年審判規則三八条二項に基づく短期処遇に関する勧告をしなかつた点において重きに失し著しく不当である。取り消しのうえ原裁判所に差し戻す旨の裁判を求める、というにある。

そこで、本件少年保護事件記録および少年調査記録を精査して検討してみるに、本件非行事実は、昭和四七年一二月ころから昭和四九年六月初旬ころまでの間に約一〇回もくり返した家出による虞犯、昭和四九年六月四日から昭和五〇年一月五日までの間の計一五回におよぶ原動機付自転車二台、普通乗用自動車九台、軽四輪乗用(貨物)自動車二台、現金等の入つたハンドバック二個などの窃盗のほか、原動機付自転車一回、普通乗用自動車三回の無免許運転、恐喝未遂一件であり、少年は、右の虞犯事件につき昭和四九年六月五日広島少年鑑別所収容のうえ同月二四日原裁判所で審判の結果、試験観察の決定を受けたが、早くも同年七月一日夜には福山市内で普通乗用自動車を窃取したうえ、友人を誘つて尾道市内まで遠乗りして無免許運転中(非行事実の1の別表(3)および2の(3))を警察官に検挙され、次いで同年八月三〇日夜にも福山市内で普通乗用自動車を窃取したうえ、友人二人を誘い交替で同市内を無免許運転中(非行事実1の別表(4)および2の(4))を警察官に検挙されたのに、さらに非行事実1の別表(5)以下および3の非行を重ねたものであり、特に右試験観察決定後は家庭裁判所調査官、中学校教師、父母、伯母夫婦らの協力による熱心な補導下になおもくり返された非行であるうえ、その不良化は中学一年二学期ころから始まり怠学、喫煙、両親に対する反抗、夜遊び、家出、不良交遊、自転車盗みなどがみられ、中学校教師や児童相談所係官による補導が続けられたが、その後も行状は一向修まらず、特にまた、未だ自動車の免許取得年齢にも達していないのに、競馬場のアルバイトなどをするうち覚えた自動車運転に異常な興味を抱き、非行事実2の(2)の普通自動車の無免許運転中に運転を誤り道路脇に転落する事故まで惹起しているのに、何の反省も示さず自動車等を窃取しては乗り廻して遊ぶ無免許運転を続けているほか、非行の態様も小遣銭欲しさに自動車を運転しながら歩行者の横を通り抜ける際、所携のハンドバックを窃取する。ひつたくりや恐喝未遂まで敢行するに至つているものであることなどに徴すると、その非行性はかなり深化しているものといわざるをえない。以上の事実に加えて少年の衝動的、防衛的、軽躁的、逃避的傾向の大きい性格上の問題点、家庭の父母は長い間不和の状態にあつて、少年には両親に対する根強い反発心、抵抗感がみられ、現状では少年に対する保護能力に欠けること、その他記録にあらわれた諸般の事情を考慮すると、少年に対してはこの際施設に収容して規律ある生活を送らせ、これまでの自己の非を反省させるとともにその自覚を促し、社会生活に適応できるよう指導教育する必要があると認められるが、前記のような少年の非行性の程度、性格の偏り、家庭環境等の諸般の事情より考察すると、その矯正は短期の処遇によつては到底その実効を期待しがたいものと考えられる。したがつて、少年を初等少年院に送致しこれに少年審判規則三八条二項に基づく短期処遇に関する勧告をしなかつた原決定は相当であつて、これをもつてその処分が著しく不当であるとは考えられない。

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高橋文恵 裁判官 渡辺伸平 原田三郎)

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